海浜図と海景
根津美術館の「美術のなかの文字」展。
古美術の鑑賞入門を謳うシリーズの続編となる展覧会では、絵や仏画、器や硯などに書かれた〈文字〉と、画讃をはじめとする様ざまな〈文字〉のカテゴリーをめぐる解説が丁寧に付されている。
絵をまなんでいた将軍に、落款を押すに相応しい場所を教えた折の、絵師の日々の記録が残っていたかと思うと、仏典を書き写した夥しい数の文字が極小の枠内にびっしりと。文字絵《十一面観音像》の、描線をなす文字を前に息をこらし、小さな文字をルーペ越しに追う鑑賞者たち。
すると、あちこちからコツン、という音が聴こえてくる。文字をみつめるのに熱心なあまり、メガネがガラスにぶつかっているのかもしれない。
Cherry Blossoms at Yoshino and Maple Leaves at Tatsuta, Left Screen(detail), Nezu Museum [photograph of postcard]
展示室「絵画のなかの文字」の一章「景色のなかの和歌」で、《吉野龍田図》の櫻と紅葉の樹に吊るされた短冊がたなびいて、絵のなかでは〈花〉や〈葉〉や〈枝〉に隠れている文字も拾って(どの〈文字〉が隠されているのかも親切に示すかたちで)和歌の全文が一首毎に屏風の前に置いてあるのを、一首一首、たしかめるように読んでは観ていく。この〈観ては読んで読んでは観て〉が愉しい。
同じ章に収められた、鎌倉時代の巻物からの掛軸「草花図」「鏡山図」「紅梅図」「海浜図」は、並び揃っての展示。
なにとはなし、順に見ていくと、涼しげな鈍い緑色と青色に表装された、淡い光の印象を醸す浜辺の絵が眼に留まった。
左奥には、どこか泡立ったようにも見える海、右端には、細線で竹薮。ふとキャプションに目をやると、最近みつかったばかりの絵であるという。なんと《海景》の仲間をなす一幅(小田原文化財団蔵)なのであった(Seascapes !)。
Hiroshi Sugimoto: Extinction, The National Museum of Modern Art, Tokyo, 2026
そんなこともあって、竹橋の「杉本博司 絶滅写真」展の《海景》の並ぶ、楕円を描くような室を、また観に行きたくなる。
「絶滅写真」展も、テーマ毎の章構成とは別の層において、和歌や狂歌、テクスト「人類の来た道」を読みあわせながら写真を観照するという、「多層構造」(プレスコンファレンスでの杉本博司氏談)をもつ展覧会として設計されていて、やはり一首一首〈観ては読んで読んでは観て〉がとにかく愉しい。