「具即抽」
Abstract Beauty and Soetsu Yanagi, The Japan Folk Crafts Museum, 2026.
駒場野公園の横をとおりぬけて向かう道すがら、外も中も真白なカフェがあたらしくできていた。駅の前にはおどろくほど大きな空き地が広がっている。
引き戸を開け、おもむろにガラス越しに陶磁器や型絵染のきものなどを眺めはじめていると、聴こえてきたのは、おそらくは旅人に展示品について解説する、ドイツ語の会話。それから、どの室でもほとんどひっきりなしに響いていたのは、英国英語。日本民藝館の特別展「抽象美と柳宗悦」は、2026年3月10日まで。
二階の大展示室を中心に展開する特別展では、展覧会のメイン・ヴィジュアルでもあるナバホ族の赤と緑がまぶしい「アイダズラー(Eyedazzler)」模様のブランケットから、土偶や甕、縄文文化を感じる木綿や小裂、だいぶ着古されている能装束に至るまでの、世界と日本のさまざまな地域の焼物と織物(そのなかには樹皮でできた「タパ」もある)が厳選されて、「抽象紋」の宇宙を魅せてくれる。
Abstract Beauty and Soetsu Yanagi, The Japan Folk Crafts Museum, 2026.
あわせて八つの室をなす、特別展・併設展・特集展示は、ゆるやかにつながり合い、植物紋様の単純化された美であれ、原始的な実用品のぬくもりであれ、あるいはModern ArtにおけるPrimitivismとの同時代性であれ、それぞれの接点をみいだすことは、しずかに鑑賞者の眼に委ねられている。
瀟洒な絵葉書セットの形式をとる図録は、サイズの小ささからうかがいしれないほど充実した内容で、特別展の概要とあわせて、『白樺』誌の複製図版を編集していた頃(それは美術作品の複製写真がまだものめずらしかった時代でもある)の柳宗悦が、ルネサンス美術、ダンテとウィリアム・ブレイク、ピュヴィス・ド・シャヴァンヌ、そしてオーギュスト・ロダンに至る西洋美術と文学にどのように触れていたかを、蔵書(ポスト印象派の関連書籍、ロダンの著作の英訳書、マンテーニャの画集など)とともにかいま見せる特集展示「柳宗悦と近代の絵画」の解説ともなっている。
企画趣旨の基にあるという、1957年の柳宗悦著「抽象美について」を読むと、「模様に熟する」ということば、そして三文字に圧縮された思考表現に出会った。
「真実な抽象は、「具即抽」、「具抽不二」なのである。」
白いタイルが目を惹いたカフェの名を、帰る道すがら探してみたら、ガラスには白い文字の「SUHO」。
晴れてあたたかい日の障子越しの光を受け霊妙にかがやいていた朝鮮白磁の記憶もあたらしいなか、SUHOは韓国の名では?と思ったら、店名は絵本の『スーホの白い馬』にちなむとのこと。夏になったらアイスクリームがおいしそう。