ひまわりの黄色い糸
A Renewal of Passion: The Impact of Van Gogh, Pola Museum of Art, 2025.
ところどころにたわわに実った柿の木をみつけながら、箱根の山を登ってゆく。登山列車をぎゅうぎゅうにしているのは、インバウンドの観光客たちで、電車の中も外も、黄金色、朱色、茶色。
春にはじまり、紅葉たけなわの中閉幕間近の「ゴッホ・インパクトーー生成する情熱」展は11月30日まで。
ポーラ美術館の所蔵作品を中心に、ゴッホの「作品と人生」の影響を、時代の流れに沿って作家別に丁寧に扱ってゆく。その大部分は、岸田劉生、木村荘八、川上涼花、萬鐵五郎らから、森村泰昌、福田美蘭、桑久保徹、そして富士山を写したフィオナ・タンの作品と、そのときどきの書籍や刊行物とともに、ゴッホに続く世代から現代に至るまでの、日本人にとってのゴッホとは何か、を問いかける。
それが、図録に寄せられた複数の論考が、社会学的・経済学的視点も含めた多様な観点から充実した資料と併せて「インパクト」と呼ばれる現象を分析する学術的手つきと相関している。
展示室では見どころが尽きなかった。二人の画家による絵を並べて観る1912年の虎ノ門風景も、医師ポール・ガシェと長谷川潔旧蔵の版画印刷機も。ポスト印象派の時代と現代の作品とを、部分的にでも、同じ室内で見てみたい気もした。
かつての日本において、複製画をはじめ印刷されたイメージや言葉から画家たちと文学者が受けとったインパクトというのも、展示と図録を貫くテーマの一つである。岩崎余帆子氏の論考は、ゴッホの書簡が図版よりも先に紹介されたことに注目を促す。藤原貞朗氏の論考は、『ゴッホの手紙』の作者が1952年にオランダを旅したことを教えてくれた。
森村泰昌氏の講演「ゴッホになって、わかったこと」(11月22日)もまた、小林秀雄のゴッホ観から出発しつつ、最新の「もうひとつのゴッホ像」をーー「ステッチ・タッチ」を鍵としてーー披露してくださっていた。
会場で見てきたばかりの映像「エゴ・シンポシォン」のTheoとVanという二人のGogh像 ーー「Tの中にVがいる。Vの中にTがいる。」ーー緑色と黄色の絵の具の塗られた兄弟の顔。
刺繍のような筆触、もう一人のゴッホのやすらぎ、あるいは(苦悩と孤独と並走する)幸福。